闇の中

ただ真っ暗で何も見えない。
地面とも天井とも分からない闇に、少女は一人、闇に佇んでいた。
目を開いているのか、開いていないのかは分からないので、目を瞑っていようと少女は思った。
「君は何を望む?」
闇の中に木霊する中性的な声。この闇の中から一体どこから聞こえてくるのだろう。
「何も望まない」
少女は目を閉じたまま、答えた。一体自分が何を望もうか。もう自分には望みなどない。
その事を知っていて、何故質問するのか少女には分からなかった。
「どうだい?行ってみたら」
一体何を言い出すのかと少女は思った。
意味がない。少女は黙った。
「君は面白い」
少女には意味が解らなかった。
この闇に沈んで、5年ぐらい経っただろうか。たとえ、それぐらいの時が経ったとしても、少女はここから出ようとは思わなかった。出れば、きっと誰かに迷惑をかけてしまう。それならば、ずっとこの闇で生きた方が百倍もマシだった。
「でも、もう扉は開いているよ?」
少女は頭を掻きむしった。
誰かが少女に向かって、コンタクトを取ろうとしているのだろう。逃げたい。けど、逃げの執着地点の先はない。
光が徐々に漏れてくる。誰かが少女の手を引っ張っていく。それを少女は抗うことすらできないでいる。
「扉はもう開いたね」
甲高い女性の悲鳴のような声だった。超音波が話しているのではないかと思うほど。
開いたのなら、少女は目を見開くしか方法はない。この闇に戻ってくることはこの先、果たしてあるのだろうか。
あるのなら、もう一度戻りたい。闇の中に沈んでいたい。
だが、少女の期待を裏切るように光は少女を取り囲んでいく。

目覚めの時は来たのだから。


2011/05/25:修正

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